2014年3月12日水曜日

世界に広がる神の祝福*ナルニア国物語*CSルイス5

おもしろブログ 特集

世界に広がる神の祝福*馬と少年*CSルイス5



馬と少年
この冒険物語は、ピーター王を一の王とした、スーザン、エドモンド、ルーシイの四人の兄弟たちが王と女王だった黄金時代の話である。
その時代に、貧しい漁師の養父によって奴隷に売られようとしているシャスタが、もの言う馬ブレーと出会い、自由の国ナルニアを目指して繰り広げる冒険が、馬と少年の物語なのである。
シャスタとブレーは、カロールメンの国を出て、ナルニアに向かう旅の途中で、ひとりのタルキーナ・アラビスと、ものを言う雌馬フインに出会う。
ふとしたことからアーケン国とナルニアの国の危機を知った二人と二頭の馬は、その計画を阻止しようと至急ナルニアへ知らせる為に、砂漠の中を急いで旅をすることになる。

カロールメンという国の南にある海辺に、シャスタという少年が、アルシーシュという貧しい漁師と一緒に住んでいた。
シャスタには仕事がいつも山ほどあった。彼の父親は、シャスタを働かせてこきつかい、利用していた。だから、父親は自分に都合良く儲かる時は機嫌が良いが、あまり儲からない時はシャスタに辛くあたり殴るしまつだった。
ある日、頭にターバンを巻いた見知らぬカロールメン人が、馬に乗って家にやって来る。
シャスタの父親は、そのカロールメン人にシャスタを売ろうとする。
父親とカロールメン人との会話の中で、シャスタは赤ん坊の頃に貧しい漁師アルシーシュに拾われたことを知る。
彼らが話している途中で外に出たシャスタは、星を見ながら物思いにふけっていた。
シャスタは、養父の元にいるよりも、まだあのカロールメン人の方が自分に良くしてくれるのではないかなどと考えていた。

シャスタは、あのカロールメン人のことが知りたくて、そばにいた馬に「お前が口をきけたらいいのになあ」と言いながら、馬の鼻面を触った時だった。
「口はきける。」と馬がはっきりと言った。
シャスタは驚いて、馬をまじまじと見ながら、どうして口がきけるのかを聞いた。
ものを言う馬は、幸せのナルニア国のことをシャスタに話して聞かせる。
馬が言うには、ナルニアでは動物も人間と同じで口がきけるのだと話をする。
子馬の頃、母親の言い付けを守らないで遠くまで来た為に人間に捕まってしまったのだが、それ以来、しゃべれない普通の馬のふりをしていると言う。
もう少し、色々聞きたいシャスタだったが、馬は時間を無駄にしている時ではないと話す。
馬は、あのカロールメン人は悪い人物で、シャスタが彼の奴隷になるくらいなら死んだ方がいいくらいだ。だから、このチャンスにふたりでナルニアがある北を目指して逃げようと言い、シャスタもそれに賛成する。
ふたりは、養父たちが寝静まったのを見て、自由の国ナルニアへと出発する。

シャスタは馬に、馬の乗り方を教わりながら、頑張って馬に乗せてもらっている。
少し行くと、シャスタはものを言う馬に名前を聞いた。
馬に名前が、「ブレーヒー・ヒニイ・ブリニー・フーヒー・ハーハ。」と答えられたシャスタは、もちろんブレーと呼ぶことにした。

次の朝、馬から12回は落ちたシャスタは、起き上がるのが辛かったが、カロールメン人が鞍袋の中に入れていた食糧で朝ご飯を食べ、一緒にいるブレーは草を食べた。
朝食の後、ブレーは、背中を芝草に擦りつけ、四本の足をぶらぶらさせた。
それを見たシャスタに大笑いされ、ブレーは、ナルニアのものを言う馬がすることかどうかを気にしだす。ブレーは、自由な口をきく馬がでんぐり返しをしていいのか悩むのだった。
シャスタは、食後でんぐり返しをする馬ブレーに乗ることに少しずつ慣れ落馬もしなくなったが、しかし、ブレーは、シャスタのことをまるで鞍に載っかった粉袋だと言い続けたようである。
数え切れないほど沢山の入り江や村を通り過ぎて、馬と少年はナルニア目指して旅を続けて行った。

さて、月の美しい夜のことだった。馬の足音を聞きつけたブレーが急に立ちどまった。
こちらが立ち止まると向こうも立ち止まる。軍馬に乗ったタルカーンに捕まってはいけないと思ったブレーたちは、相手から離れようと月が雲に隠れる時をみはからう。
しかし、雲で月が隠れ、暗闇になった瞬間、恐ろしいライオンの声がした。ブレーは、ライオンから逃げようとだだひたすら走った。
気がつくと、もう一頭の馬もライオンから逃げようとしている。どうやらライオンは二頭いるらしい。一頭のライオンは左側からブレーたちを追いかけ、もう一頭のライオンは右側からもう一頭の馬を追いかける。
そのうち、気がつくと二頭の馬の間は触れるぐらいに近づいていた。二頭の馬は、死に物狂いで走り続け、目の前にある海の細長い入り江を渡った。シャスタの口は、上がる水しぶきで海の水で塩辛くなり、二頭の馬は泳いでいた。
シャスタが後ろを振り返ると、目的を達成したのか、一頭のライオンが水辺にかがんでいた。
こうして、シャスタとブレーのふたりは、アラビスとものを言う雌馬フィンに出会ったのだった。

海から上がったブレーとシャスタは、もう一頭の馬と女の子がしゃべっているのを確かに聞いた。雌馬フィンとカロールメン人のアラビスという名の女の子もナルニアを目指して逃げているところだと言う。
そこで、お互いの身の上でも話しながら、一休みすることにする。

タルキーナ(カロールメン人の女性)のアラビスが自分の身の上を語り始める。
彼女の母親が亡くなり、父親が再婚すると、自分を憎む継母が家からアラビスを追い出す為に、アホシータ・タルカーンに嫁がせようとしていると話す。
アホシータ・タルカーンは、へつらいと悪企みによって出世した男で60才の猿のような顔をしていて、アラビスのことをとても気にいり、夏に結婚しようと言って来た。
その話に目の前が真っ暗になるように感じたアラビスは、雌馬フィンに乗り、人気の無い森の中までたどり着く。そこで、将来に嫌けがさしたアラビスは自害しようと剣を心臓に当てる。その時だった。雌馬フィンが、人間の言葉でしゃべり、アラビスが自害するのを止めたのである。
アラビスは、死が恐ろしい為に幻でも見ているのではないかと思ったが、フィンからナルニアの国のことを聞き、自分には考えられなかったような世界が現実にあることを知ったのだった。
アラビスは、雌馬フィンが子馬の頃さらわれカロールメンに連れて来られたことを聞き、一緒にナルニアに逃げることにする。

そこで、アラビスとフィンは、一旦家に帰り、結婚を喜んでいるふりをして、カロールメンの風習に従い、結婚前の女がするように森に出かけザルデーナの女神に捧げ物を備えに行く為に3日の間出かけると告げる。そして、追手が来ないようにと、小さい子どもの頃からアラビスを育ててくれた召し使いに手紙を書かせる。
その内容は、アホシータ・タルカーンが森でアラビスと会い、そのまま結婚するために彼女を連れて帰るというものだった。
それからアラビスは、森で一緒にザルデーナの儀式を行う侍女を呼びつけた。アラビスは、その晩、侍女に睡眠薬入りの酒を飲ませ、侍女や家中の者が寝ているすきに、お金や食糧を用意して、雌馬フィンと共に家を出たのだった。
そして、アラビスは、ザルデーナの儀式をしているだろうと思う父親は、3日間はアラビスを探しに来ないだろうと考え、4日目になって駅伝の者に、追手の来ないことを願いながら、召し使いに書かせた偽物のアホシータの手紙を、家に送らせたのだった。
それを聞いたブレーとシャスタは、雌馬フィンとアラビスと共に、ナルニアを目指して進むことにする。

四人は、カロールメンの都タシバーンに近づた時、お互いがはぐれた時の待ち合わせ場所を、古代の王たちの墓に決める。そこなら、誰も来ないだろうという訳である。
タシバーンを安全に通り抜けるために、四人は変装をすることにして、シャスタとアラビスのふたりはボロを着てお百姓になり済まし、二頭の馬は泥を塗り疲れたふりをする。

タシバーンの都は、島の周りに高い壁がめぐらされ、壁の内側に建物がびっしりと立ち並び、島全体が一つの丘になっていた。
朝になりタシバーンの都の門が開かれたので、四人は大通りへと進んで行った。
大通りの人混みに紛れて進むうちに、シャスタたちは、ナルニアの貴族、ナルニア王の一行に出会うことになったのだった。
シャスタがナルニアの王たちを見ると、彼らはカロールメン人と違い、シャスタと同じ白い肌をしていて、ほとんどの人が金髪だった。
それに、カロールメン人たちは、もったい重々しいぶった様子をしているのだが、ナルニア人たちは、リラックスした様子で笑いながら話したりして旅を楽しんでいる風だった。
こんな素晴らしい人達に出会ったのは初めてだったので、シャスタはその時を楽しんでいた。
すると突然、ナルニア王がシャスタを見て、「我らの逃亡者がここに居たぞ。」と言いながらシャスタの肩をつかむと、シャスタは金髪の人達にとり囲まれ、ナルニア人の宿舎に連れて行かれることになる。
シャスタは、いたずら好きのコーリン王子と間違えられ連れて行かれたのだった。それくらいシャスタとアーケン国のコーリン王子はそっくりだったのだ。
ナルニアの人々の宿舎で、ぼーっとして何も話せないシャスタは太陽の熱にでもまいったのだろうと気持ちの良い介抱を受けくつろいでいると、ナルニア国の危機を語るエドモント王の声が聞こえて来る。
カロールメン人の王子が、とてもスーザン王女を気に入り、何とか花嫁にしようとしているという。もし、スーザン王女が断れば、たとえナルニア国とアーケン国を滅ばしてもスーザンを手に入れるようカロールメンの王子は計画するだろうとのこと。
そこで、ナルニア人たちは、エドモントとスーザンを交えて、ナルニアの船で豪華な宴会を催すことにし、そのまま船でナルニアに逃げ切ろうと計画を立てる。
そんな話を耳にしながら、シャスタが世話を受け休んでいると、そこに本物のコーリン王子が帰って来る。
いたずら好きのコーリン王子は、ふたりで何かいたずらしようとシャスタを誘うが、シャスタはコーリン王子が脱走した道を使って逃げ出すのだった。

夕暮れに、シャスタは、はぐれた時の待ち合わせ場所の古代の王たちの墓場にたどり着く。そこから先はどこまでも砂漠が続き、前方には山脈があった。
どこかに、ブレーたちがいないかと探してみたが、寂しい墓場には誰もいなかった。
こんなに寂しく不気味な場所で夜をひとりで過ごさなければならないと思うと、シャスタはやりきれなかった。
その時、何かの生き物がシャスタの足に触った。それは、一匹の猫だった。
その猫の目は、まるで人に言えない秘密があるかのようだった。シャスタをじっと見つめると、墓場から砂漠の方へとシャスタを連れて行くのだった。
シャスタは猫の温かさに安心して眠りについた。しかし、突然の物音に目を覚ますとそれは野獣たちの鳴き声だった。
あの猫がいなくなっているかと思うと、そこに大きな獣が現れ、ひと声吠えると野獣たちは消え去って行った。そうかと思うと、その大きな獣が自分の方へと歩いて来た。
ライオンに違いないとシャスタが怯えて目をつぶると、何か暖かい者が足もとに横たわった。シャスタが目を開けて見ると、それはさっきの猫だった。
シャスタが猫と背中合わせに横になると猫の体の温かさが、シャスタの体中に伝わって来た。そのままシャスタは眠ってしまい、明くる朝を迎えた。
太陽が高く上った中で、シャスタが目を覚ますと、もうあの猫はいなかった。

シャスタは墓場でずっと待ってはいたが、誰も来ない。途方にくれ、日も沈みかけた頃、ブレーとフィンがやって来たが、ひとりの見知らぬ男に連れられている。しかも、アラビスが見当たらない。シャスタは出て行くわけにはいかず、墓場の後ろに身を潜めた。

シャスタがナルニアの人たちに連れて行かれた後、アラビスは昔の同級生のようなラサラリーンに会う。
アラビスが彼女に簡単な説明をし、助けてくれるように求めると、ラサラリーンはものぐさそうに役に立つことにする。そして、アラビスとブレーとフィンは、ラサラリーンの屋敷に行くことになった。
人の話を聞くより、自分の話や衣装や宴会の話が好きなラサラリーンにわかってもらうのは至難の技だったが、やっとアラビスは彼女から本気で相談に乗ってもらえるところまでこぎつける。
ラサラリーンはアラビスに、城門を通らずに町を出て古代の王たちの墓に行き着く道を教える。それも、スーザン王女を狙うラバダシ王子のいるティスロック王家の庭から脱出できるという。
アラビスは、ブレーとフィンに水や食糧を持たせ、安全なように馬丁と共にシャスタの待つ古代の王たちの墓場に行かせる。
そして、ラサラリーンとアラビスはティスロック家の宮殿へと出かけて行く。ラサラリーンの案内で庭を通り、城門を通らず町から出ることができる門へと向かうが、人影に気づいたふたりは、慌て隠れることにした。
そこに入って来たのは、ぶよぶよに太ったティスロック王子とアラビスの婚約者アホシータ・タルカーンとラバダシ王子だった。そこで、三人の密談が始まる。

スーザン王女に逃げられたラバダシ王子は、やたらアホシータに八つ当たりするので、父親のティスロック王が、「我が子よ、大臣を蹴ることを止めよ。」と言っている始末である。かねてから、自由の国ナルニアが気にいらなかったティスロック王は、ラバダシ王子のワガママと自分の利己的な計算により、この機会にナルニアを征服しようと企むのだった。
そこで、ラバダシ王子が砂漠を超え、まずアーケン国の城門を破り、アーケン国を乗っ取れば、次はナルニアに攻め寄せ、ラバダシ王子がスーザン王女を奪い取る。
また、アーケン国さえ乗っ取れば、ティスロック王の軍を増強して、いつでもナルニアを征服できるとの計画を実行することになる。

彼らが出て行った後、やっとアラビスとラサラリーンは門を見つけ、アラビスは墓場に急いで行った。
アラビスが墓場に行くと、ブレーとフィンと馬丁が待っていた。アラビスが馬丁にお金を渡すと、馬丁は墓場からいちもくさんに帰って行った。
そこに隠れていたシャスタが出る来ると、やっと四人が揃った。
アラビスは、ラバダシ王子の遠征の計画をブレーたちに話し、ラバダシ王子より先にアーケン国に至急知らせることにするのである。

シャスタたちは、静かな夜の砂漠の中を北を目指して駆けて行った。
昼間に太陽が照らした熱も夜には放出されて、涼しいくらいだった。
朝になり太陽が照りつけると、砂漠は黄金色を見せ、光に目を痛めるくらいだった。
しかし、それでもシャスタは目を閉じずに、二つ根山を見て方向を確認したいた。
シャスタは、二つ山の二つの頂がいつも真正面に見えるように方向を見定めていたのだった。
馬たちが疲れると、シャスタたちは馬の隣を歩いて行くことになってはいたが、素足のシャスタは余りの砂漠の砂の暑さに悲鳴上げる。優しいブレーは、自分が疲れていてもシャスタを乗せ頑張って前進する。
アラビスは靴を履いているので何も言わず、わざとすましている。

食べる時間さえ惜しんで前進する中、八つの目はひたすら、カラスの黄色の主が話していた谷がないかと探し続ける。
シャスタは、コーリン王子と間違えられた時に、ナルニアのカラスの黄色の主が話していた砂漠を通ってアーケン国に着ける最善の道の話を聴いていたのだった。
この道を急げば、必ず、ラバダシ王子の軍隊よりも早くアーケン国に急を知らせることができるはずだ。ブレーとフィンとアラビスはそう思っていた。

シャスタたちは、計らずも何かに導かれていた。全てが何かの摂理の中にあるようだった。アスランは、彼らの人生の全てを知り、細部に至るまで導いていたのだ。
シャスタがコーリン王子と間違えられて、ナルニアの人々の話しを聞いたのも、ただの偶然ではない。
キリスト教では、このことを神の摂理と言い、世界の全ての事を支配して導く神の意志と恩恵を表している。

やがて日が暮れて、星が輝き出した。子どもたちは疲れ果て、馬たちは無言で走っていた。その時、シャスタが、渇いた喉を振り絞って、吠えるように叫んだ。「あれだ!あれに違いない!」とうとうカラスの黄色の主が話していた道を見つけたのだった。
少し行くと、小さい滝が流れ落ち、小さな池となっていた。シャスタも馬も心行くまで水を飲んだ。シャスタにとって、それは素晴らしいひとときだった。
少しの間、休むことにした。ナイチンゲールの鳴き声だけが響いていた。

皆が起きると日がすでに高く上がっていた。皆は軽い食事をし水を飲んだ。
みんな疲れていたが、その中でもフィンが一番疲れていた。しかし、一番早く出かける為に立ち上がったのは、フィンだった。
長い間奴隷として働かされていたブレーは、まだ、その癖が抜けていなかったのだ。
人に支配され、強いられて動いて来たブレーは、自分の目的に向かって、自ら自由に全身全霊でぶつかれていない。だから、フィンの方がブレーよりも積極的だ。

それからは比較的、川があり、花が咲いている楽しい道が続いた。
しばらく行くと、二つ根の山の間の真正面に、アーケン国からナルニアへと抜ける道があった。川の浅瀬を渡ると、そこはアーケン国だった。
そこには、今までシャスタやアラビスが見たこともない、クリ、シラカバ、ナナカマド、カシの木が豊かに広がっていた。

その時だった。ラバダシ王子の軍隊の煙が見えた。彼らも既にアーケン国の近くに迫って来ていた。
アラビスが叫ぶ。「急いで、ブレー!あなたが軍馬だってこと忘れないで!でないと、全てが無駄になってしまう。」
ブレーは、やっとフィンに追いついた。そろそろブレーも自分たちが選んだ目的達成の為に、もっと頑張ろうとしていた。

再びその時、何やら後ろから物音が...。そう、それは紛れもない、シャスタとブレー、アラビスとフィンが初めて会った日に聞いたライオンが後ろから追い駆けて来るあの音だった。
ライオンに気づいたブレーは、その時になって、自分が精一杯走っていなかったことに気づいたのだった。今こそ、全速力で走るブレー。ブレーは、フィンよりだいぶ先を行くほどである。

目の前に、門があり、長い衣を着た老人が杖を持って立ち、こっちを見ている。
シャスタはその瞬間、後ろを振り向いた。すると、ライオンがフィンの後ろ足に噛みつこうとしているところだった。「止まれ!ブレー!」
勇敢にもシャスタは、馬から降りてフィンとアラビスを助けに行く。
しかし、ライオンは爪を立てるとアラビスの肩を引き裂いたのだった。
シャスタは、気が変になるくらいに恐ろしかったが、「しーっ、しーっ、帰れ!」とライオンに向かって言った。アスランは犬ではなかったが...。
シャスタがライオンを見つめていると、不思議なことに、ライオンは立ち止まり、向きを変えると去って行ったのだった。

南の国境の仙人は、四人を心良く迎え入れると、シャスタにひとりでアーケン国に知らせに行くように言うのだった。
シャスタは、気が遠くなりそうに思ったし、内心、不平と不満の山だった。
シャスタは、何か一つ良いことをすれば、その報いとして、もれなくもう一つ、もっと困難で良いことをする機会が与えられる事を知らなかった。
アラビスはけがをし、馬たちも疲れ切っている。
シャスタは、アーケン国の王の場所を仙人より聞くと、北を目指して走って行った。

アスランとシャスタとの出会い
やっと、アーケン国の国境のある仙人の家に着き、アラビスとブレーとフィンは休むことができたのだが、シャスタだけは危機を知らせる為に走り続けることになってしまった。
そして、ちょうど狩りに来ていたアーケン国のリューン王に、シャスタはちょうど出くわし、共に行くことになる。

シャスタが、危機を知らせる為のアーケン国のリューン王の一行とはぐれ、険しい山道をひとり、前進しなければならなかった時のことである。
誰かが、ずっと自分のそばを離れずに歩いている。その誰かは、シャスタが話しかけるのをずっと待っていた。
シャスタは、暖かい誰かの息づかいを感じ、その息で安心し、今まで不幸せだと思っていたことをみんな打ち明けたのだった。
しかし、シャスタはそこで、ライオンであるアスランが、いつも共にいて、自分を慰め、守り、道を導いていてくれたことを知ったのである。

シャスタは、自分の側を何とも誰ともわからないものが歩いているのに気がついたのです。........「あんた誰?」とシャスタは、ささやき声にもならないほど小さな声で言いました。
「あんたが話しかけるのを、ずっと前から待っていた者だ。」とその何かが言いました。
..........「....ああ、僕は、この世で一番不幸せな人間なんだ。」するとまた、シャスタは、 その何かの暖かい息づかいを手と顔に感じました。.......
「....あなたの不幸せだと言うことを、 みんなわたしに話してごらん。」
シャスタは、その息で少し安心しました。そして、どうして自分が本当の父や母を知らないのか、どんなに厳しく漁師に育てられたかを話しました。
それから逃げ出した時の話、ライオンに追いかけられて、とうとう泳いでを助かった話をしました。
また、タシバーンで起きた 危ない出来事の数々、お墓で過ごした夜のこと、それに砂漠の中から出てきた 野獣のことなども話しました。
さらに また、砂漠の旅の暑さや喉の渇き、目的地のすぐそばでまたライオンに追いかけられ、アラビスが傷を負ったこと、その上 、自分がもう長い間 、何も食べてないことも話しました。
「わたしの考えでは 、あんたは不幸せだとは言えないな。」とそのすごい声が言いました。.........
「わたしがあんたをアラビスに会わせるようにしたライオンだったのだよ。あんたが死人の家 、墓地のあたりにいたとき 慰めたネコもこのわたしだ。寝ている時 、ジャッカルを追い払ったライオンもわたしだ。あんたがリューン王のところへ遅れずにつけるように、追われる恐ろしさから 最後の一キロを駆け通す新たな力を馬たちに授けたライオンも、このわたしだ。
それから、これはあんたの知らないことだが、昔、死にそうな赤ん坊だった あんたを乗せた舟を押して、夜中に眠れないで 浜辺に出ていた男に、あんたを渡すようにしたライオンも、このわたしだったのだよ。」.......
「あなたは、一体どなたです?」とシャスタは尋ねました。
「わたしは、わたしだ。」その声は、たいそう深く低い声で言ったので、地面が震えました。そして、次に、「わたしだよ。」と澄んだ明るい大声で繰り返しました。
そしてさらに、三度目に、「わたしさ。」と、ほとんど聞きとりにくいほど柔らかく、しかも木の葉をさらさらと鳴らして、周りじゅうから聞こえてくるように囁くのでした。
シャスタは、...何かうれしい気持ちでした。....
シャスタの目は、まぶしくなりました。行手のどこかで 鳥の鳴き声が聞こえてきました。
とうとう 夜が明けたことが分かりました。自分の乗っている馬のたてがみも、耳も頭も
よく見えるようになりました。黄金色の光が左手からさしてきました。朝日だろうとシャスタは思いました。
振り返ると、自分のそばを歩いていたのは 馬より背の高い、一頭のライオンでした。....
さして来た光は、そのライオンから出ているのです 。これほど恐ろしいもの、しかも美しいものは、他にないでしょう。....
シャスタは、偉大なライオン、アスランが、ナルニアの一の王たちのその上の王で、海の彼方の皇帝の息子であるという本当の話も、もちろん知ってはいませんでした。....
あらゆる王たちの王は、シャスタの方へ身を屈めました。たてがみが、不思議な気高い香りを周りに振り撒きながら、シャスタを包みました。
そしてその舌でシャスタの額に触れました。シャスタが顔を上げると、目と目が会いました。
その時、にわかに、霧の淡い明るさと、ライオンの燃えるような輝きとが一緒になって、渦巻く後光となったかと思うと、全てが消え失せました。<CSルイス著*瀬田貞二訳>

イエスキリストは、いつも共におられる。これが、馬と少年の物語のモチーフ
私たち人間も愛する人といつも一緒にいたいと思うものである。
愛する相手のことが気になってしまう。
神は愛であり、私たちの髪の毛の数さえ毎日数えておられるほどに私たちを愛され、私たちの人生の全てを知っておられる。と聖書に書かれている。
その全てに、神の御心や御手の働きがあり、私たちの人生を治めてくださっているのである。

アスランは、シャスタのことを絶えず気にかけ、シャスタが困った時はいつも共に居て、シャスタの人生の全てを導いていた。
イエスキリストもまた、私たちと共におられ、私たちを守り、私たちの人生の道を導かれるのである。
しかも、その方は、全世界の王の王なのである。
"「正義を語り、救うに力強い者、それがわたしだ。」"<イザヤ63:1>
シャスタの「あなたは一杯どなたですか?」の問いかけに対して、「わたしだ。」と答えるアスラン。
"「わたしだ。」"と言われた時、私たちは一番頼りになる人、一番自分を愛してくれる人を思い出すのではないだろうか?
救い主イエスキリストは全世界の王でありながら、実に繊細で愛と優しさに満ちた方なのである。
あらゆる王たちの王であるアスランは、自らへりくだって身を屈めてシャスタにキスをする。そして、目と目を合わせるのだ。これ以上の愛の表現はないのではないだろうか。
そんな風に、全世界を治めておられる王の王が、私たちを愛し、いつも共におられる。
これ以上に心強いことはない。

"主は私の羊飼い。
私は、乏しいことがありません。
主は私を緑の牧場に伏させ、
いこいの水のほとりに伴われます。
主は私のたましいを生き返らせ、
御名のために、義の道に導かれます。
たとい、死の陰の谷を歩くことがあっても、
私はわざわいを恐れません。
あなたが私と共におられますから。
あなたのむちとあなたの杖、
それが私の慰めです。
私の敵の前で、あなたは私のために食事をととのえ、
私の頭に油を注いでくださいます。
私の杯は、あふれています。
まことに、私のいのちの日の限り、いつくしみと
恵みとが、私を追って来るでしょう。
私は、いつまでも、主の家に住まいましょう。"<詩編23編>

アスランが去った後、シャスタは、アスランに会ったことを夢のようにも思ったが、現実にライオンの足跡を見ると、夢であるはずはなかった。そして、不思議なことに、その足跡からガラスのように澄んだ水が流れ出し、川となって流れて行った。
シャスタは、思う存分ガラスのように澄んだ冷たい水を飲み、顔や頭もその水で浸した。
アスランの足跡から流れ出た水は、シャスタを元気を取り戻し、まるで生き返ったように、シャスタに再び立ち上がる力を与えたのである。

朝日の中でシャスタが辺りを見渡すと、アーケン国とナルニアとの間の大きな山脈が見え、アスランのおかげで、夜の間に一歩間違えば危険な崖がある、その高い山を無事に越えていたことがわかったのだった。
アスランが絶えず、危険な側を歩き続け、暗闇の中シャスタが落ちないように心を配っていたのである。
シャスタは、今すでにナルニアにいることを思いながら、アスランへの感謝の気持ちで一杯だった。
アスランから湧き出た水を飲み、息を吹き返したシャスタは、この後ナルニア国に入る。この後、シャスタのアーケン国とナルニア国へ緊急の知らせ通して、両国に勝利が与えられ、また、シャスタの人生の問題も解決し、彼は自分自身のことにおいても勝利が与えられる。そして、シャスタが不幸と思えたほどに、アスランがなぜシャスタをアーケン国まで強引なまでに導き、応援したがわかるのである。
シャスタの人生は、孤独で辛いものだった。しかし、実はアスランにも、彼の父親にもシャスタは愛され続けていたのである。

シャスタが、斜面を下り森の中に入って行くと、ナルニアのハリネズミが声をかけてきた。「おはよう、おとなりさん。」
ハリネズミは、シャスタから事情を聞くと、みんなに連絡を回したが、シャスタが倒れそうにお腹が空いているのを知ると、さっそく朝食へのご紹待。
シャスタは、小人たちのスプーンやお椀で、何度もおかわりしながら、美味しい料理をお腹一杯になるまで食べたのだった。
さてこれから、シャスタがアスランと共に勝利して行く物語が展開して行く....。


*ナルニア国物語を読んで*
ナルニア国物語の中では、とにかく、アスランが登場人物の子供たちに、泉や川の流れから水を飲ませるシーン、谷川の流れや泉に導き、子どもたちが喉の渇きも心の渇きもアスランによって満たされていく話の内容が多い。
谷川の流れを慕う鹿のように、主よ我が魂はあなたを慕う。<詩編42:1>
聖書の詩編には、こんな言葉がある。
著者CSルイス自身が、救い主イエスを慕い求めることを心に刻んでいたのか、それとも、CSルイスが読者に強く伝えたい事だったのか、どちらかはわからないが、救い主イエスの人格を強く現す内容であることは確かである。
救い主イエスキリストがどのような方なのかが、ナルニア国物語に描かれているわけである。

馬と少年の物語では、シャスタに示されたアーケン国への最善の道に、砂漠の中に豊かなオアシスが備えられていた。
また、シャスタがアスランと出会ったすぐ後のことである。
アスランの足跡から、泉が湧き、やがて溢れ出すと川となって丘のふもとまで流れて行った。シャスタがかがんで水を飲むと、その水はシャスタをすっかり元気ずけた。そして、シャスタが目を上げて辺りを見渡すと、アスランに導かれ守られながらナルニアの国に行き着いていたことを彼は知った。その時、シャスタはアスランのことがわかり、感謝の心に溢れたのである。
銀の椅子の物語では、ジルとの出会いの中で、アスランがジルの喉の渇きを潤している。
朝びらき東の海への物語では、リーチピープが真水の海に導かれる。
リーチピープは、自分に与えられていた古いことわざの歌により、必ず東の海の果てで、アスランの国に行き着くと信じていた。そして、そこで真水の海を飲んだのだった。
彼らは、誰も彼もアスランが大好きだった。アスランが必要不可欠だったのである。
そして、アスランと共に生きていきたいと思っていた。

救い主イエスに出会った者は、イエスキリストを慕い求めるようになる。
それほどに救い主イエスは素晴らしい方であると、ナルニア国物語の著者CSルイスは言いたかったのかもしれない。

シャスタが行った聖書的役割については、終末の時、異邦人キリスト者がイスラエルの国の危機を知り、イスラエル人たちに良き知らせをもたらす務めがあるのである。
(詳しくは、当ブログ2013.8.7日*終末における神の御心*参照)
聖書の雅歌の中には、ふたごと言う言葉が使われており、それはイスラエル人キリスト者と異邦人キリスト者を指していると思う。
救い主イエスキリストが十字架の死と復活を成し遂げられ、昇天された後、ペンテコステの日を迎える。そして、ぺテロやパウロという使徒たちの良き知らせによって、イスラエルキリスト者と異邦人キリスト者が、ふたごのように生まれた。
この終末、異邦人キリスト者にイスラエルの国に対する神の務めがあると、CSルイスは馬と少年の物語を通して聖書の世界を描いたのかもしれない。

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