2014年3月12日水曜日

世界に広がる神の祝福*ナルニア国物語の作者CSルイス4

おもしろブログ特集

世界に広がる神の祝福*銀のいす*CSルイス4



銀のいす
ユニークなキャラクターの泥足にがえもんと、たくましくなったユースチスと女の子ジルが、行方不明になったナルニア国の王子を探し出す冒険物語。

どんよりとした気分のさえないようなある秋の日のことだった。
ジル・ポールという女の子が泣いていた。いつも、いじめっ子たちに苦しめられていたからである。
そこに、たまたま通りかかったのが、朝びらき丸で東の海に航海をしたユースチス・スクラブだった。ユースチスには、ジルが泣いている理由がわかっていた。いじめグループの存在にはユースチスも問題を覚えていたからだ。

「放っておいてよ。どうすれば良いか、私に教えてくださろうって言うんだから、お偉いわよね!どうせ、あんたがいつもしているみたいに、いじめグループにお世辞でも言って、媚びへつらって過ごせって言うんでしょ?」と言うジルに、ユースチスは「今学期になってそんなことをしたことがあるかい?そして、できるなら、前のことは忘れてくれよ。」と話すユースチス。
「そうね、確かにあんたは変わったわ。私だけでなく皆そう言ってるわ。どうして、そんなに変わったの?」と訪ねるジルに、ユースチスは不思議な国、アスランの国ナルニアの話をする。
始めはユースチスにかつがれているのでは?と疑ったジルも、ユースチスの真剣さにナルニアの国に行ってみたくなるのだった。

「何かの魔術みたいに、地面に変な絵を書いて、おまじないでも唱えれば行けるの?」と、ユースチスに尋ねるジル。
しかし、ユースチスにもナルニアへの行き方はわからない。
「でも、魔術でまじないを唱えるようなインチキな方法は、アスランは好きではないと思うよ。だが、アスランにお願いすれば行けるかもしれない。だって、まじないは自分の思っている通りに相手をコントロールできると考えてるってことだろ?」と、ユースチスは答えるのだった。
アスランの心にかなう方法は何か?を考えてみるユースチス。
そこで、東の方向を向いて、アスランの名を呼ぶことしたユースチスとジル。そして、ふたりは、アスランによってナルニアの国へと呼ばれることになる。

「アスラン、アスラン、アスラン。どうか、僕たち二人を....」その時だった。
ジルをいじめようするグループの怒鳴り声が聞こえて来た。
いじめグループに見つけられたふたりは、彼らに追いつかれまいと、学校の外の敷地に出られる門から、慌てて外に走り出る。
すると不思議なことに、そこには、どんよりとした秋空ではなく、輝く太陽のような世界が広がっていた。ふたりは、アスランの国、ナルニアに来ていたのである。

ナルニアの国の大きな高い木々の中をふたりが進んで行くと、目の前には、青い空ばかりが広がっている。高い崖の上にたどり着いていたからだった。
危険を感じたユースチスは、ジルを守ろうと崖っぷちから離そうとしたが、高い所に自信のあるジルはユースチスを軽蔑して戻ろうとしなかった。ジルは、ユースチスが臆病だと思ったのだ。
しかし次の瞬間、ジルは、自分が予想もしなかったほど高い崖っぷちにいることに気がついた。余りの高さに目がくらんでしまい、訳が分からなくなったジルは、助けようとするユースチスともみ合いになり、ユースチスを崖から突き落とすことになってしまう。
その時、輝く何か大きな獣が崖の外れに走り寄り、ユースチスに息を吹きかけ続けている。
ユースチスの悲鳴に気絶しそうになったジルだったが、振り向いてその獣を見ると、それは、ライオンだった。
最後までユースチスに息を吹きかけた後、ジルには目もくれないで、ライオンは林の方へと帰って行った。

アスランとジルとの出会い
ジルは、崖か落ちて行ったユースチスのことを思い出して泣いていた。
泣けるだけ泣くと、恐ろしく喉が渇いたことに気がついたジルは、川のせせらぎの音がする方へと歩いて行った。
ナルニア国の川はガラスのように澄んでいた。その小川で、ジルが水を飲もうとした時だった。
そこに、ライオンが横たわっていたのである。アスランが現れたのだ。

水を飲むことを躊躇しているジルにアスランは言った。
「喉が渇いているのなら、飲めば良い。」
二度その言葉を繰り返すその声は、深く、強く、重々しい黄金の声とも言うべき王者の声だった。
始めはライオンに襲われるのが不安だったジルも、ライオンと一緒に話しているうちに、このライオンが言うことはみな真実であると信じることが不思議にできるのだった。
そこでジルが、ナルニアの小川から手で水をくみ飲んでみると、その水は今ま飲んだことがないほどに清々しい味で、喉の渇きがすぐに止まったほどだった。

「わたしが与える水を飲む者は誰でも、決して渇くことがありません。わたしが与える水は、その人の内で泉となり、永遠のいのちへの水が湧き出ます。」<ヨハネ4:14>
これは、聖書に書かれている救い主イエスの言葉である。救い主イエスは、喉の渇きばかりではなく、心の飢え渇きまで満たされる方である。
したがって、アスランと出会ったジルは、このあと、自分の失敗から来る絶望から解放され、心の飢え渇きまで満たされていくのである。

「おいで。」ライオンが言ったので、ジルは従がわないわけにはいかなかった。
そこで、ジルは、ライオンの前足の間に入ったようになり、その顔と真正面に向き合うことになった。だが、長くその顔を見つめてはいられずに、ジルは目をふせてしまった。

アスランは、「ユースチスはどこだ?」とジルに問いかける。
「自分が見せびらかした為に、私が落ちるのを止めようとしたユースチスが崖から落ちてしまったの。」と正直に答えるジル。
その時アスランは、アスラン自らがジルの失敗を補いユースチスを助けて無事である事を、ジルを安心させるために告げたのだった。
そして、ユースチスに息を吹きかけ、ナルニアに居るユースチスの親友の近くに吹き降ろしたと、アスランは言う。

それから、アスランは、ジルとユースチスとをナルニアに呼び寄せたのは、ある仕事をして欲しいからだとジルに告げるのである。

.......「...あんたがたは、行方不明の王を探し、王子を見つけて、父王のもとに連れて帰るのだ。探しているうちに死ぬか、もとの自分たちの世界に戻ってしまうこともあろう。」
「どのようにして、探すのですか 、教えてください。」とジル。
「教えよう 。わが子よ。」とライオン。「探しに行く際に 、あんたを導くいくつかの しるべがある。
その第一は、男の子 ユースチスが、 ナルニアに着いくや、昔馴染みの親友に出会うだろう。ユースチスは、ただちにその友達に挨拶をしなければならない。すぐ挨拶をすれば、 あんたがたは、良い助力を得ることになろう。
第二に、あなたはナルニアから北方へ向かって旅をして、 昔の巨人族の都の跡に行かなければならない。
第三に、崩れた都の跡で、 ある石の上の文字を見つけるのだ。そしてその文字の告げることを果たさなければならない。
第四に、その旅の途中で 、わが名アスランの名にかけて 、あんたがたに何かしてくれと頼む者に初めて出会うだろうが、それによって、あんたがたは行方不明の王子を(もし見つけ出した場合には)その人と認めることができるだろう。」...
「...だが、 まず何よりも覚えておけ。かたくかたく覚えておけ、あのしるべを。そして、朝寝をさました時、夜横になった時、夜中にふと目覚めた時、いつもそれを思い起こせ。......」...「そのしるべを心で知って、見せかけにはだまされないことが、とても大切なのだよ。しるべを思い出せ。そして、そのしるべを信じなさい。...」<CS ルイス著*瀬田貞二訳>

ライオンのアスランは、ナルニアの行方不明になっている王子を探し出す為の4つのしるしを告げるのである。そして、アスランはジルに、そのしるしを忘れないように、朝も夜も、いつもそれを思い起こすよう言うのだった。
これは、次の聖書の詩編1の御言葉がモチーフとして書かれている。

”主の教えを喜びとし、昼も夜もその教えを口づさむ。
その人は水路のそばに植わった木のようだ。
時が来ると実がなり、その葉は枯れない。
その人は、何をしても栄える。〃
聖書の御言葉を告白することは、その人の人生に成功をもたらすことになる。
何よりも、聖書の御言葉は、真実な神が約束してくださっている事柄なので、神ご自身が責任を持って成就させてくださるのである。
聖書には、御言葉を思い巡らした人々が登場する。イエスの母マリヤもそのひとり。
御言葉を思い巡らすことによって、神の御心を深く知ることができるし、例え妨げるものがあったとしても、そう行動することが容易になるのだ。

この後、アスランの息によってユースチスのところに吹き飛ばされたジルは、一隻の船が今にも出航しようとしている時に、ナルニアに到着する。
もう年老いたカスピアン王が船に乗り込もうとしていた。カスピアン王は、目が弱ってしょぼしょぼし、人に助けられながらなんとか立っていた。彼は、ちょっとした風が吹いても倒れそうだった。そしてその横に、朝びらき丸東の海への物語で登場した小人のトランプキンが居た。彼も年老いて、その頭ははげ、夕陽があたってテカテカと光っていた。

ジルは、初めてのナルニアの国の美しいケアパラベルの城や、不思議な動物たちの様子に見とれてしまい、ユースチスに話すのが遅れてしまう。
しかし、ひらめくようにアスランのしるべの言葉を思い出したジルは、昔の友達に話しかけるようとのアスランのことづけをユースチスに言ったが、ユースチスには昔の知り合いが分からない。
その時、ラッパの音と共にカスピアン王の乗った船が出航して行った。

すると、真っ白大きなフクロウの白ばねが飛んで来て、ふたりの前に降り立った。
「ホー(Who)ホー(who)、あんたがたは誰?」フクロウが首をかしげながら、目をパチパチさせて、ふたりに尋ねてくる。
ユースチスが自己紹介しつつ、ふたりがアスランから送られたことをフクロウに告げると、「夜にならないと正気にならないのに、えらいことを聞いた。まだ昼なのに」などとフクロウは言いながらも、摂政の小人のトランプキンにすぐに話すよう助言する。
そしてフクロウの話で、さっき出航した年老いた王がユースチスの知っているカスピアン王だと、ユースチスは気づくのだった。

フクロウが摂政の小人のトランプキンに話しをするが、もう耳の遠くなったトランプキンには、なかなか話が伝わらない。
トランプキンに普通に話しをすれば「耳もとで小声で話しをするな」と言われ、大きな声で話すと「そう怒鳴るな、わしはそんなに耳が遠くない。」と言われるフクロウとユースチス。
そこで、このふたりの話し方では無理だと判断したトランプキンは、銀でできたラッパを補聴器代わりに耳につけ、話しを聞くことにする。
小人のトランプキンは、アスランからジルとユースチスが遣わされたことを聞くと、トランプキンは目を輝かせ、カスピアン王がふたりに会うことができていたなら本当に喜んだことでしょうと言いながら、もう夕食時なので明日の朝に正式に御用を承りますので、城に泊まるようにと、ふたりに丁重に勧めるのだった。
それから、耳の遠いトランプキンは、ユースチスとジルに聞こえないようにフクロウの耳もとで言った。「ふたりをよく洗っておけ。」
しかし、あまりにトランプキンの声が大きかったので、ユースチスとジルは聞いてしまった。それほどふたりは汚れていたのだった。
小人トランプキンのユーモア溢れる口調は、少し形を変えたが、年を取っても変わらないらしい。驚き、桃の木、山椒の木!

結局、アスランの第一のしるべの言葉に失敗したジルとユースチスだったが、夜になって、フクロウ会議に出ることになり、フクロウ達から、アスランによって自分たちがナルニアに遣わされた理由を詳しく聞くことになる。

十年前、カスピアン王の子供である若い騎士リリアンが、母ぎみの女王と共に、ナルニアの北部に乗馬に出かけた時のことだった。毒々しい緑色をした大きな蛇が、女王の手に噛みついたのである。リリアン王子はすぐその蛇の後を追ったが、蛇が茂ったやぶの中に逃げ込んだ為に殺すことができなかった。そのことが原因で、リリアン王子の母ぎみは、亡くなってしまう。
母親の死でひどく傷を受けた王子は、あの毒々しい緑色の蛇を見つけ、母親の仇を取ろうと、身も心も疲れ果てていながら、いつもナルニアの北部に狩りに行くようになる。
そんなリリアン王子を心配したドリニアン卿が、王子と共に北の森に出かけると、女王が亡くなった泉の北側に、美しい、毒々しい緑色の衣を身にまとった女が立っていた。
そして、王子がまるで魂を抜かれた男のようになったかと思うと、急にその女は居なくなり、ドリニアン卿にはその女がどこに行ったのかさえ分からなかった。
ドリニアン卿には、あの緑色の衣を着た女は、悪い魔女としか思えない。
その日、ふたりは一緒にケアパラベルに戻ったが、次の日また、王子は一人で出かけて行き、ついに帰って来なかった。

一番年を取ったフクロウは、その魔女はナルニアを自身の思いのままに支配しようとする深い巧みを持っていると言う。

フクロウ達の話によって詳しいことがわかったユースチスとジルは、リリアン王子を助けに行かなければならないと決意を固める。

「ポールと僕は、王子を見つけなければなりません 。手助けをしてくれますか?」
「何か手がかりがありますかなおふたりさん?」と白ばねが訪ねました。
「あります。」とスクラブ。「とにかく北にことになっている。そして、巨人の都の跡に行くことになっている。それだけは知っています。」
これを聞いて、....たちまちフクロウたちが一斉にしゃべりだしました。
それはフクロウたち全部が口々に 、子供たちと一緒に、いなくなった王子を探しにいけないのが どんなに残念かと言っていたのです。
「あなたがたは昼間旅をしたがる 。私達は夜旅をしたがるできる。できぬ相談、できぬ相談」<CSルイス著*瀬田貞二訳>
これから向かう先が巨人の都跡だと聞いて、すっかり気分がくじかれたフクロウ達は、巨人の都跡に行く為に力をかせる泥足にがえもんの所に、スクラブとジルを連れて行くことにする。

ユースチスとジルは、フクロウの背に乗って真っ暗な夜空を飛んで行き、沼人である泥足にがえもんの所に到着する。

白ばねが呼びました。「起きなさい、泥足にがえもん、目を覚ましなさい。ライオンのご用だ。」....
灯りがきたのを見れば、大きな手さげの角灯の灯りです。ジルはそれをさげている人をあまりよく見られませんでした。でもその人は 、手足ばかりのように見えました。
フクロウが一斉に話しを聞かせていますが、ジルは、あまりもくたびれてしまって聞いていられません。....気がつくとフクロウたちがジルにさよならを言っているのでした。......
自分とスクラブが、なんだか狭い入り口を入って、それから(やれ、ありがたい!)何か柔らかくて 温かい物の上に横になり、次のような言葉を、誰かが言ったことを、ようやく覚えているのです。その声は、こう言いました。
「さあ、おやすみ。せいぜいこんな所です。寝ても寒くて固いでしょうさ。おまけに湿っていることも請け合いでさ。雷雨や洪水があったり 、あたしがよくやられるように このテントが体の上に倒れて来たりしなくたって、大抵とろりとも まどろめないでしょうさね。せいぜいのとこ、ー」けれどもジルは、ぐっすり寝込んでしまって、おしまいまで聞きませんでした。
あくる朝、子どもたちが目を覚ましてみると、暗い所にワラをしいたベッドで、寒くもなく濡れもせず、しごく暖かに横になっていることを知りました。<CSルイス著*瀬田貞二訳>

ユースチスとジルが朝起きて沼人の所に行くと、昼食ようにとうなぎを取っていた。
沼人は、先の尖った平たい帽子をかぶり、細い葦の束のような髪の毛をして、痩せて背が高く、手にも足にも水かきがあった。顔の表情はまじめそのもの、一文字にきつく結んだ口は、泥足にがえもんがきまじめなことを思わせる。
ユースチスとジルの二人が近づくと、「おはよう、良い天気ですね、いつ雨や雪や雷に襲われるか知れたもんじゃないけど。」と挨拶してくれる。
ユースチスが沼人に名前を聞くと、「泥足にがえもんと言いますが、忘れてもかまいませんよ。その度に教えますから。」と妙に親切な答えが返って来る。
続けて泥足にがえもんは、ユースチスとジルに言うのだった。
「昼ご飯にうなぎ汁を作ろうと、うなぎを捕まえようとはしているが、一匹でも取れるかどうか....、しかし、取ってもあんたがたは、お気に召すまい。
もっとも平気な顔で美味しそうに食べてくださることは疑いませんけど....。
ところで、あたしがうなぎを捕まえている間に、火の用意をしてくださるとありがたいんだが。たきぎはテントの裏にありますよ、もっとも湿っているかもしれませんけどね。
テントの中で火を起こしてくださっても良いが、それじゃあ煙が目にしみる。外で火を起こすのも良いけど、その時は雨が消しちまう。
さぁ、これがほくち箱ですけど、使い方はもちろんご存知ない?」

この泥足にがえもんの不思議なキャラクター、CSルイスがブラックユーモアにも人間観察にも富んでいたことを思わせる。
CSルイスがどんな思いで書いたのか確証はないが、私たちひとりひとりが、神の使命に添うように造られていることを描いているのだろう。
(参考までに、当ブログ2013.9.22日おもしろブログ特集*エレミヤ*の【エレミヤは神の作品】をどうぞ!)
この泥足にがえもんのユニークなキャラクター、彼がアスランの使命を受け、最後にどうなるのか非常に興味をそそるのだが....。

一匹もうなぎは取れないかもと言いながら15匹も取った泥足にがえもんと昼食を食べながら、これからの計画を話し合うことにするユースチスとジルと泥足にがえもん。
泥足にがえもんは「ものになるほど遠くへ行けなくても、おいそれとは帰れないくらい遠くには行けましょうさ。」と、ユースチスとジルを奇妙に励ましてくれる。
そして、ユースチスとジルに、泥足にがえもんが加わって、行方不明の王子を探す為にナルニアの北へ、北へと旅に出かけることになる。

谷間の国ナルニアに別れを告げ、ユースチスとジルと泥足にがえもんの三人は、アスランが言った第二のしるしを目指して、巨人の住む荒野へと向かって行った。
巨人の住むエチン荒野に入って、三人が始めに目にしたものは、単純な石投げの遊びだけしか理解できない、高度な文明を築くにはほど遠い巨人たちだった。
その巨人たちの間を通り過ぎ、渓谷にたどり着いと、今度は、高度な文明を持つ巨人たちが築いたと思われるイギリスの巨石文化の一つであるストーンヘンジのように細工をされた太鼓橋が、あちらとこちらの崖を結んでいた。橋の欄干には、ムカデやイカ、牛の頭などの恐ろしい神々の彫刻が施されてあった。
ユースチスとジルと泥足にがえもんが、その橋を渡り切った時、ふたりの見知らぬ者が近づいて来た。
ひとりは、真っ黒な鎧で身を隠し、真っ黒な馬に乗った騎士であった。もうひとりは、眩しいくらいの緑の衣に身を包んで、愛らしい白馬に乗った貴婦人だった。
緑の衣を着た貴婦人が親切そうに三人に話しかけ、高度な文明を持っているハルファンの巨人の城へと道案内する。
緑の女が言ったハルファンでの熱いお風呂と柔らかいベッドやごちそうの話、秋祭りの為に人間の子供たちが巨人たちに送られる話に夢中になったユースチスとジル。
しかし、あくまでも緑の女を疑い否定的な泥足にがえもん。泥足にがえもんは、その緑の衣の女が言ったハルファンの巨人の城に行くことに反対する。
それでも、ふたりの子どもが固くハルファンでくつろいだ日々を過ごそうと決心しているので、しかたなく、泥足にがえもんは、ナルニアから来たことも、リリアン王子を探しに来たことも言わないことを条件に、ハルファン行くことに同意したのだった。

緑の衣の女に会って話をした後、異なる2つの点で悪くなったのである。
一つ目は、道のりが険しくなり、北風が吹き降ろすし、夜寝ている時にもごろごろした石が体に当たって眠りずらくなったことだった。
もう一つは、ユースチスとジルのふたりが、緑の女の言った暖かい食事やベッドのことしか考えられなくなり、アスランの話をすることも、行方不明のリリアン王子の話をすることも止めてしまったことだった。そして、ジルは、毎朝、毎晩、アスランの言ったしるしの言葉を繰り返し言うことを止めてしまった。
緑の衣の女はそうやって、アスランとアスランの告げた言葉から、ふたりの子どもたちを引き離すことに成功したのだった。

ある日の午後、ようやく三人は、渓谷が開け、山地を通り抜けたことを知った。前方には、雪の積もった山々がそびえていた。
その山々の手前に、整わない形をした頂上が平らな一つの丘が見えたのだった。

夜になり、遠くの暗闇の中に灯りがさしているのが見えた。それは、ハルファンだった。
その頃から、雪が降り出し、三人は寒さの中で休むよりも前進するしかないような状況に悩まされていた。
吹雪が顔に吹きつけ余り前が見えない中で、先ほど見た頂上の平らな丘ふもとにたどり着いたらしいことを知った。その丘は、四角に削られた岩で成り立っていた。
三人は、行く手に立ちはだかる岩を登ることになったが、手足の長い泥足にがえもんが先に上に登って、ユースチスとジルとを引っ張り上げた。
全部で四段の岩を登ると、奇妙な溝のようなしきりが立てや横に十文字にいくつも走っていた。
その丘の上には、まだおかしなものがあるようだったが、ジルはそれが何かを考えようともしなかった。
その時だった。ジルが滑って溝のような割れ目に落ち込んだので、ユースチスもその溝がどこかにつながっていないか探検することにした。ところが右や左に曲がっては行き止まりになってしまうので、とうとう泥足にがえもんが二人を引き上げた。

こうしてもう一度、寒さに凍える丘の上に立つのは辛いことだったが、泥足にがえもんがジルにアスランのしるしは何だったかと訪ねる。
しかし、ハルファンのことばかり考えるようになり、アスランのしるしの言葉を繰り返すことを止めてしまっていたジルは答えることができなかった。
ジルはイライラして泥足にがえもんにあたってしまう。
ジルは、心の奥底ではアスランの教えを覚えていなければならないことを知っていたので、ちゃんとやっていない自分にイライラして腹がたったのだった。
このおかしな丘を調べるべきだと主張する泥足にがえもんを振り切って、丘の上から再びハルファンの灯りが見えたジルとユースチスは、ハルファン城へと向かうことにする。
しかなく、二人について行く泥足にがえもんだった。

巨人たちの城に着くと城門はまだ開いていた。巨人の城に入って行くのは勇気がいるが、
ハルファンに行くことを反対していた泥足にがえもんが、その時大胆にも勇敢に入って行った。
緑の衣の女が秋祭りの為に彼らを寄越したことを知った巨人の門番は、機嫌良く三人を迎え入れた。門番が巨人の陛下にその事を伝えに行くと、三人は陛下の前に招かれた。
再び、緑の衣の女が秋祭りに彼らを寄越したことをユースチスが王に言うと、王は舌なめずりをしながらジルたちを歓迎したのだった。
やっと、待ち望んでいた暖かい部屋と熱いお風呂とごちそうとにありついたジルは、気持ち良く眠りに着いたのだった。

真夜中のことである。オモチャの木馬がひとりでにジルのベッドに近づいて来たかと思うと、本物のライオンに変わり、それと同時に、かぐわしい香りが部屋の中に満ち溢れたのだった。
その時、ジルの心はアスランを慕う切なさで一杯になり、涙が流れ落ちた。
夢で現れたライオンは、しるべの言葉を繰り返しなさいとジルに告げ、口の中にジルを加えて窓辺に連れて行き、窓から外を眺めるように導いた。
月に照らされたそこには、「ミヨワガ下ニ」の大きな文字が浮かび上がっていた。
ジルが目を覚ました時には、アスランの夢を見たことは覚えていなかった。

朝ご飯の後、ユースチスと泥足にがえもんがジルの部屋に訪ねて来た時だった。
太陽の日差しに照らさている窓から三人が外を眺めると、巨人の都の跡が広がっていた。
そして、丘の敷石に書かれていたのは、「ミヨワガ下ニ」の文字だった。

ユースチスが、アスランの第二、第三のしるべの言葉をやり損なったことを口にすると、
ジルに昨日の夜に見たアスランの夢がよみがえって来た。
その時ジルは、アスランのしるべを繰り返す事を止めてしまったいた間違いに気づいたのである。
ジルもユースチスも泥足にがえもんも、それぞれが自分たちの至らなさを思う内に、アスランとアスランのしるべから目をそらそうとした緑の衣の女の策略に気づいたのだった。

アスランのしるしを守ることに失敗している三人には、結構辛い旅になったのだが、
それでもなんとか巨人の都跡の下にたどり着き........

そこに居た黒い騎士は、ナルニアのリリアン王子なのか、それともジルの言うように「とびきりまぬけなおおばかのブタ」なのか?......

ユースチスとジル、そして、泥足にがえもんが、滅びた巨人の都の跡の下にたどり着くと、見事な金髪の若者が三人を迎え入れたのだった。
黒い服を着たその若者は、大胆で親切そうだったが、どこかまともではない様子を見せていた。
ハムレットに似た黒い騎士から出る言葉は、緑の衣の女を誉めることばかりで、ナルニアにもリリアン王子にも興味を示さない。
ユースチスとジルが、アスランからの命を受けナルニアのリリアン王子を探し、アスランのしるべの言葉によって、この滅びた巨人の都跡の上に書いてあった「ミヨワガ下ニ」という文字に導かれてここにたどり着いたことを話すと、騎士はおかしそうに笑った。
黒い騎士は、三人がかつがれていると言う。
黒い騎士は、「我が姫から聞かされた話だが、大昔の詩に『ワレ、イマヤ地下ニアリテ、王位ナケレド、生キシ時ハ、ミヨ、地上ハスベテワガ下二。』という言葉があって、都の巨人属の大王がその言葉を石の上に掘らせたのだが、大昔のことなので今は6文字しか残ってないのだ。それが自分たちに当てて書かれたと考えることほど滑稽なことはない。」と言う。

この言葉は、スクラブ(ユースチス)とジルの背中に冷や水を浴びせたようなものでした。つまり、あの文字がまるっきり三人の求めているものと関係がないこと、三人ともただの偶然に引き回されただけに過ぎないように思われたからです。
「あの人の言葉は気にしなさんな。」と泥足にがえもん。
「偶然なんかじゃありませんさ。あたしらの導き手は、アスランです。巨人王があの文字を掘らせた時に、あの方はそこにおられて、その時すでに、そこから出てくることになるあらゆる出来事、今度のことも混ぜて、全部を知っていたのですとも。」<CSルイス著*瀬田貞二訳>

それを聞いた騎士は、またまた笑い、そう言う泥足にがえもんはよほどの長生きに違いないと、皮肉って見せる。
負けじと泥足にがえもんが、あんたの姫君こそ、その詩が初めて掘られた頃を覚えているなんてよほどの長生きに違いない。と切り返して見せる。
ちょっとおかしい黒い騎士は、泥足にがえもんの肩を叩いて、また笑いながら、優しい姫君の話をする為に三人を食事に誘うのだった。

黒い騎士は食事を勧めながら、自分がどこの誰かが分からず、いつ夜見の国に来たのかも知らないと言う。そして、緑の衣の姫君が、悪い魔法にかかっていた自分を助け出し、ここに連れて来られたに違いないと思うし、姫君だけが、今でもまだかかっているその呪いから解き放ってくれるのだと話をする。
呪いがかかっているので、夜ごとに自分の心が恐ろしく変わる一時がやって来る。その発作の時には、椅子に手足を縛りつけられなければ自分は危険で、椅子から離れて立ったが最後、恐ろしい大蛇に変わり果てるのだと、黒い騎士は言うのだった。

黒い騎士に発作がやって来た時、三人は他の人々に見つからないように部屋から出るが、泥足にがえもんのあの黒い騎士から何か手がかりがつかめるかも知れないとのアイデアに、三人は黒い騎士の様子を見に行くことにする。
その時、椅子に縛りつけられ苦しむ騎士は、太陽が輝く世界から、暗い地下深くに自分は生きながら埋められた。今こそ正気だ。この椅子から解き放ち自由にしてくれと言い出したのである。

椅子の捕らわれ人は、いましめのままぐんと力を入れて張りきりましたから、ひもが手首と足首に深く食い込みました。....
「ひらに願いあげる。どうか自由にしていただきたい。あらゆる心のおののきと愛にかけて、天上の明るい空にかけて、偉大なるアスラン、アスランそのひとにかけて、わたしは願うー」<CSルイス著*瀬田貞二訳>
それは、アスランの第四番目のしるべの言葉だった。

救い主イエスキリストは、悪魔という暗闇の力の下に捕らわれてしまっている人を助け、解放される。それだけでなく、色々な心配事や思い煩い、また、自分ではどうにもならないような否定的な思いからも自由にされるのだ。
その為に救い主イエスは、彼に従う人々を愛によって他の人に遣わされる方なのである。
"....主はわたしを遣わされた。
捕らわれ人には赦免を、
盲人には目の開かれることを告げるために。
しいたげられている人を自由にし、主の恵みの年を告げ知らせるために。"
<ルカ4:18.19>

アスランのしるべの第四の言葉に大声を上げた三人は、黒い騎士を椅子から自由にするために、アスランのみ名において、リリアン王子を縛っていた縄目を切り落として行ったのである。
そして、ユースチスとジルと泥足にがえもんの三人は、アスランのしるべの言葉を守ることに見事成功したのである。
"あなたの御言葉は、私の足のともしび、私の道の光です。"<聖書の詩編119:105>

リリアン王子は銀の椅子から解放されると、銀の椅子に剣を降りおろした。すると、銀の椅子は剣の前に糸のようにバラバラなったのだった。そこから、目を射るような稲妻と共に悪い魔術が立ち上ぼった。
「魔女のからくりが消え去り、もう二度と他の人が魔女のいけにえになることがないように。」リリアン王子がそう言って助けてくれた人たちを見ると、そこにいたのは、心正しいナルニアの沼人や、子どもたちだった。
リリアン王子は、緑の衣の女の魔術である銀の椅子から解放され、本来の自分に戻ることができたのである。それまでは、ナルニアの記憶さえ消されていたのだった。
ユースチスはリリアン王子に自己紹介し、自分は父君と朝ひらき丸で一緒に航海をしたユースチスであり、アスランに遣わされてリリアン王子を探しに来たことを告げる。
そこで、リリアン王子は父の身を案じながら、10年もの長い間自分が、魔女の魔術に捕らわれていたことをリリアン王子は知る。
リリアン王子は、10年間ものあいだ、生きたまま暗い場所に閉じ込められ、本来の自分の人生、ナルニアの王子として生きる人生を奪われてしまっていたのだった。
アスランは、そんなリリアン王子に、ユースチスとジルと泥足にがえもんを遣わし、生きたまま埋められたリリアン王子を生き返らせ、復活させたのである。

聖書にはこのように書かれている。
"主は、....あなたのいのちを穴(墓)からあがない、
あなたに、恵みとあわれれみとの冠をかぶらせ、
あなたの一生を良いもので満たされる。
あなたの若さは、鷲のように新しくなる。<詩編103:4.5>
イエスキリストは、十字架で死んだ後、三日後に復活された。それは、私たちに永遠のいのちを与える為だけでなく、この世における人生を再び、新しい命の力で満たす為でもある。そして、新しい人生へと立ち上がらせて行くのである。

アスランが、ユースチスとジルと泥足にがえもんをリリアン王子に遣わし、生きたまま埋められたと彼が感じている状況から解放すると、その時彼は、10年間忘れていた自分自身が誰であるかを思い出すことができたのである。
そして、ナルニア国の王子としての力強い剣によって、自ら銀の椅子を破壊し、魔術の力をうち壊したのだった。彼は、ナルニア国のリリアン王子として復活したのである。
そしてこの後、もちろん、ナルニア国の王としての新しい人生へと立ち上がって行くのである。

その時、足音が聞こえて来た。あの魔女がやって来たのだ。暗闇の地下の国の女王である緑の衣の魔女は、素早く状況を見て取り、全てを悟ったようだった。
アスランがリリアン王子に遣わしたユースチスとジルと泥足にがえもんの働きを阻止しようと、緑の衣の女は巧むが、その中でもリリアン王子とユースチスとジルと泥足にがえもんの四人は、緑の衣の女の魔術の力に勝利するのである。

魔女は、王子に目を注ぎながら、小さな櫃から緑色の粉を取り出すと暖炉の火に投げ入れた。すると、うっとりとする甘い香りが立ち上ぼった。
その次に魔女は、マンドリンのような楽器を取り出すと指先で弾ながら、これまたうっとりとするような甘い声で話し始めるのだった。

「王子様、お気の毒に、病気が重いのですね。どこにもナルニアという国はありません。」
「いえ、ありますとも、お姫さま。」と泥足にがえもん。「あたしは、今までずっとそこで暮らして来たのでさ。」....
「なるほど、ではどうぞ話してくださいな。どこにそんな国がありますの?」
「この上の方でさ。」と泥足にがえもんは、勇敢に、頭の上を指差しました。......
女王は、優しく柔らかい、玉をころがすような笑い声をたてました。「この屋根の石とモルタルの間に、国があると言うのですか?」....
スクラブ(ユースチス)も、甘い香りとつまびきの音の惑わしに、激しく戦っていました。「....この上に出て、空と太陽と星が見られる所ですよ。....」....
ジルは、私たちの世界の様々なものの名を思い出すことができませんでした。そして、今度は、自分が魔法にかかっているという思いが浮かばなくなりました。
もはや、魔法が効きすっかり効き目を表していたのです。言うまでもありませんが、惑わしの魔法にかかればかかるほど、だんだんかかったと思わなくなっていくものなのです。...
泥足にがえもんはまだ一心に戦っていました。....
「でもあなたが、指が疲れて弾けなくなるまでそのポロンポロンを弾いたとて、断じてあたしにナルニアを忘れさせることができるものですか。それに地上の国も忘れるものか。二度と再び、あの地上が見られないかもしれませんがね。あなたが地上をすっかり滅ぼして、ここのように真っ暗にしてしまったかもしれませんがね。それが一番ありそうなことでさ。けれどもあたしは、前にそこにいたことをはっきり覚えていまさ。
満天の星を見たこともある。朝になると海から昇り、夜は山の後ろに隠れる太陽を見たこともある。昼ひなかの空に太陽を仰ぐと、眩しくて見ることができないほどですとも」....
泥足にがえもんの言葉は、人を奮い立たせる効き目がありました。他の三人は、再び息をついて、初めて目の覚めた者のように、お互いの顔を眺めました。....
その時、魔女の声がして来ました。「あなたがたの話している太陽とは何ですか?....」...
王子は、冷たく丁寧に言いました。
「あのランプをご覧ください。...私たちが太陽と呼んでいるものはあのランプのようなもので、ただはるかに大きく明るいものなのです。それは地上のあらゆる国々を照らし、空にかかっています。」....
「...ランプに似ているとしか、おっしゃっられませんわ。あなたの太陽は夢なのです。その夢の中では、ランプを元にして考える他になかったんですわ。ランプは本当にあるものです。でも太陽なんて、作り話ですわ。...」
惑わしの魔法は、三人をすっかり捕らえてしまいました。泥足にがえもんだけは、最後の力を振り絞って、暖炉の方へ歩いて行きました。....
その裸足で、燃える火を踏みつけて、平たい暖炉の中の火の盛りの所を、揉み消して灰にしてしまったのです。....
あの甘い重苦しい香りが薄れました。....漂って来たのは、重に沼人のやけどの匂い....それでは、人をとろかすわけにはいきません。
それがたちまち、みんなの頭をはっきりさせてしまいました。王と子どもたちは、再び頭を上げ、目をぱっちりと開きました。....
「一言申し上げたいんでさ。姫様」と泥足にがえもん
「よろしいか、あたしらがみな夢を見ているだけで、ああいうものがみな―つまり、木々や草や、太陽や月や星々や、アスランその方さえ、頭の中に造り出されたものに過ぎないといたしましょう。...だとしても、その場合ただあたしに言えることは、心に造り出したものこそ、実際にあるものよりも、はるかに大切なものに思えるということでさ。....
あたしは、アスランの味方でさ。たとえ今導いてくれるアスランと言う方が存在しなくても、それでもあたしは、アスランを信じますとも。
あたしは、ナルニアがどこにもないということになっても、やっぱりナルニア人として生きて行くつもりでさ。...用意がよろしければ、さっそくにあなたの御殿を下がり、この先長く地上の国を求めてさすらおうとも、暗闇の中に出かけて参りましょう。
どうせあたしらの一生は、さほど長くはありますまい。しかし、あなたのおっしゃる世界がこんなつまらない場所でしたら、それは、わずかな損失にすぎませんから。」
「やあ、万歳!泥足にがえもんさん、でかしたぞ!」スクラブ(ユースチス)とジルが叫びました。
<CSルイス著*瀬田貞二訳>

見えるところによらないで、自分が信じるところによって歩むことも大切である。
自分の見えているものだけが確かとは限らない。自分が思うことが真実とも限らない。
大切なのは、救い主イエスを信じて、聖書の神の御言葉によって判断し、歩き続けることなのである。
イエスキリストという神は、心の中に住まわれる方である。
心の中で信じるものこそ、見える状況や私たちの思いよりも、はるかに大切なこともあるのである。CSルイスは、泥足にがえもんの言葉を通して、そう言いたかったのではないだろうか。

最後までアスランを心の中で信じ続けた泥足にがえもんによって、緑の衣の魔女の偽りの力は見事に打ち破られた。
泥足にがえもんは、ジルがアスランに与えられたしるしの言葉だけでなく、アスランそのものに信頼を置いていた。だからこそ、アスランを信じ抜いた泥足にがえもんによって勝利を取ることができたのである。
泥足にがえもんにとって、アスランは光であった。アスランと共に歩む道には、希望、喜び、楽しみ、夢、つまり彼にとって生きる上で欠くことができないものがあったのである。
アスランが創造した朝になって輝く太陽の光も、夜になって輝く星々も、泥足にがえもんにとって欠かすことができないものだった。
緑の衣の女は、太陽も星もない地下の暗闇に帝国を築き、リリアン王子をまるで生きたまま墓に葬り去ったような所に閉じ込めていた。
泥足にがえもんにとって、そんな世界で生きて行くことは、死んだように生きることを意味していた。何が、真実の世界か、嘘っこ遊びの世界かを論じるよりも、何が自分に生きる喜びを与え、生きる力を与えるのかが大切なのではないだろうか。
泥足にがえもんにとって、アスランは生きる希望だったのである。
"初めにことばがあった。ことばは神と共にあった。ことばは神であった。この方は、初めに神と共におられた。
すべてのものは、この方によって造られた。造られたもので、この方によらずにできたものは一つもない。
この方にいのちがあった。このいのちは人の光であった。光はやみの中に輝いている。やみはこれに打ち勝たなかった。"<ヨハネの福音書1:1ー5>

泥足にがえもんの勇気ある言動力の源は、アスランがみんなに信頼されるにふさわしい王(リーダー)だというところにある。それほど、アスランは魅力的なのだ。
今、目の前に導いてくれるアスランがいなくても、そんなアスランを信じ抜いた泥足にがえもんこそが、みんなに信頼され、称賛される言動を行えたのである。

この後、魔女は緑の大きな蛇に変わり、リリアン王子に絡まり巻きつきながら、王子を締め上げようとしたが、王子は満身の力を込めて剣を降り下ろす。
そこに、泥足にがえもんもユースチスも駆けつけ、剣を降り下ろすと、大蛇の首が切り落とされ、恐ろしい化け物は死んだのだった。
そして、リリアン王子と泥足にがえもんとユースチスとジルの四人は、ナルニアに向けて帰路に着くのである。

ナルニアに着くと、カスピアン王がリリアン王子を祝福する。リリアン王子は、もう年老いたカスピアン王の死ぬ前に、なんとか間に合い、会うことできたのだった。
アスランの使命を果たし、その様子を見たジルとユースチスは、アスランによって自分たちの本当の世界に帰ることになる。
アスランが息を吹くと、ふたりはもう一度始めの山に戻っていることを知った。すると、不思議なことに、カスピアン王を弔う音楽が聞こえて来る。
ふたりが、その山に流れる清い川のそばに歩みよると、アスランが前を歩いて行く。
やがてアスランが立ち止まると、その川に死んだカスピアン王が横たわっていた。
その姿を見たライオンは、大粒の涙を流すと、ユースチスに近くにある茂み木のいばらを持って来るように言うのだった。そして、アスランはユースチスに、自分の足裏にそのいばらを打ち込むように命じるのである。
そして、アスランから流れ出た血がカスピアン王にかかると、カスピアン王の姿が変わり始め、どんどん若返っていったのである。
そして、そこに立っていたのは、ユースチスが知っている若い頃のカスピアン王だった。
カスピアン王は、アスラン抱きつくと、キスをした。それは、アスランを信じ抜いたがゆえに祝福の人生を終えた王者のキスだった。アスランもそれに答えて、カスピアン王に激しいキスをするのだった。

救い主イエスキリストは、私たちを死からあがない出し、祝福された人生を与え、そして、永遠の命を与える方なのである。
それが、イエスキリストが私たちの罪を背負い、十字架の上で血を流された意味である。
先に書いた聖書の<詩編103:3ー5>の御言葉をモチーフとして、CSルイスは、銀の椅子の物語の中で、救い主イエスキリストの十字架の死と復活の力を描いたのだろう。
(救い主イエスの十字架の死と復活による勝利の意味について詳しくは、ホームページ*最後のアダムイエスキリスト*十字架の血による平和*参照)

アスランから遣わされた使命を果たしたユースチスとジルは、自分たちのこの世界に帰って来る。そして、ユースチスとジルは、いつも変わらない親友となったのである。



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